2016年7月31日

オープンキッチン

オープンキッチンがあるレストランは何かが特別だと期待をしてます。普通なら料理人が裏側で料理を作り、他のスタッフによりその料理が客のテーブルに運ばれ、客がそれを口にした瞬間どういう反応をしたかは見えないですが、オープンキッチンの場合客が目の前に座っているし、物理的になんの「遮断」もなく食事を取る全貌が見えるからこそ手応えも感じるし、またはその進捗によって料理を出すタイミングも調整することが可能です。客にとってもどういうふうに料理が作られているか見えて、チェフがキッチンでの振る舞い自体がある種の楽しみでもあります。

それがオープンキッチンのメリットだと思いますが、この前に行ったレストランは完全にそれを裏切った体験でした。

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オープンキッチンの真っ向に座っているのにもかかわらず、宴会の人数が揃ってないにもかかわらず、まだ序盤なのに料理が次から次へと出されてしまって一気にテーブルがいっぱいな状態になってしまった。そのあげく後半になってからは一気にペースが落ちてて全然料理が出されてなかった。刺身やピザなど温度が変わると食感そのものが変わる「敏感」な料理は、客が無関心でも、製造者側(この場合は料理人)は少なくとも出すタイミングをこだわってほしいところです。じゃないと完全に「製造者側の都合」で、さっさと出して終わらせよう、というふうに受け取るかもしれません。


この記事は決してそういう店に対して文句を言いたいのではなく、ウェブのエンジニアを長年やってきて、一人の「製造者」としてオープンキッチンというシステムには憧れがあります。

一度うちの創業者からウェブサービス開発を「リアルな店舗を経営する」というアングルから見てみる話を聞いたことがあります。お客さんが店に入った後どういう行動を取っているのか、そもそもドアを押すか引くかで迷ってないか、だったら自動ドアにすべきか、メニューは見やすいか、どの料理を一押ししたいのかなど、ウェブサイトを物理的な店舗に置き換えると色々と新しいものが見えてくると思います。

ただウェブ上では、我々が作ったものがどういうふうに使われているか、物理的に見ることは不可能に近いです。チェフが厨房から出て客とコミュニケーションを取るのもよく聞く話で、ウェブ業界でも似たように、ユーザーさんを招いて新作のプロトタイプを触ってもらう、というユーザーテストの手法もあります、が「チェフが厨房から出る」よりかはまだまだセットアップのコストとハードルが高いし、製造者が直接関与する場合中々素直な反応を得ることは難しいだと思います。よっぽどのことがない限り、消費者にとっては初対面の製造者にガツンとダメ出しをする人間は少ないでしょう、みんな気を使うから。Mixpanelなどのユーザー追跡のツールが充実してはきているが、オープンキッチンのようなリアル店舗での直感的なフィードバックにはまだまだ敵わないですね。

そして組織的にそういったユーザーの「声」(問い合わせやご意見)を拾うのはまた別部署、製造者本人たちではないケースがほとんどでしょう。確かにそう分割したほうが効率的かもしれませんが、その声が完全に遮断される恐れもあり、本人自ら拾いに行かないとそれは永遠に耳に入らないかもしれない。綺麗なコードやシステムの最適化だけを追求するようなーー決して悪いことではなくむしろエンジニア評価の軸の一つですがそれしかやらないというマインドセットに関しての話ですがーーよくありがちな夢に永遠に浸かってるまま、エンドユーザーがどういう反応をしたか、そのことすら気にしない「製造者」は業界問わずいるのではないかと思います。


どの業界にも「オープンキッチン」のような無遮断、無関与、ありのままで製造者と消費者をつなぐ「窓口」があるわけではないから、せっかくオープンキッチンに装飾した場合、それをただの飾りやおしゃれにするのではなく、ちゃんと目を開けて、観察しながら料理を作ってほしい、そういった贅沢なステージはそうは多くないから。

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Qihuan Piao

朴 起煥

東京で働いている「外人歴」9年のソフトウェア「ライター」。いつの間にか納豆が食えるようになり、これで日本に慣れきったと思いきやまだまだ驚きが続いてる。読んだり書いたりするのが好きで、自身の経験や本から得た「何か」をここに書き出してる。最近古本屋にハマってる。

他にも英語中国語で書いてます、よろしければチェックしてみてください。