June 28, 2018

カウンターの向こう側に立つ(2)——変わってくる日常の風景

前回:(1)33歳からのカフェバイト

僕が働いているブックカフェは繁華街のとある商業施設の四階にある。名前の通り本屋とカフェが融合した空間で、未購入の本でもカフェでじっくり座って試し読みができる。店内にはWifiとコンセントが整備されていて、コワーキングスペースやミーティングの場所としても利用できる。クラフトビールやレモンサワーなどのアルコールメニューもあり、仕事帰りでサクッと飲むのもなかなか快適。

僕は元々は一人の客としてその空間に陶酔し、果敢に応募したわけです。そうやって今はブックカフェのスタッフとして働いている。エンジニアの時期と比べると、日常はガラリと変わった。

続きを読む…

まずは基礎体力が要る。僕は大体昼の12時から夜10時までシフトを入れていて、途中の1時間〜1時間半の休憩を除けば、基本は立ちっぱなし。それを週5のペースでとりあえず一ヶ月やってみる。

今まではデスクワーカーとして「溺愛」されてきた貧弱な僕にとって、最初は正直キツかった。初日の勤務がちょうどゴールデンウィークのピークに当たり、帰宅後、ソファに安らぎを求めた時に、ぼろっと転ばしたのは「あー、座るのっていいな」という言葉だった。足が痛くて、ベッドで横になってもまだ硬直状態だった。このままじゃ身がもたないんじゃないかと心配もしたけど、意外と人間は適応力が高い生き物ですね。この肉体の苦痛も、3日も経てばすっと慣れてきた。GWの連休も終わり、激務ではなくなったのも大きいけど。

僕らスタッフたちは基本カウンターの内側で作業する。この決して大きくはない空間の中での移動は、実はけっこう多い。スマホのアプリで歩数をカウントしたら、そこだけで一日一万歩を超える日もあったりする。熱々の食洗機からカゴを取り出し、お皿やコップを拭いて元の棚に戻したり、腰を下ろして冷蔵庫から仕込みやドリンクを出したり、閉店後椅子を全部テーブルに乗せて大掃除したりして、運動量が圧倒的に摂取量より多いから、実際三週間で約3kgも落とした。ジムで贅肉を意図的に削る鍛え方より、働きながら自然に痩せていくのは、なにか原始的でオーガニックな味がする。温室栽培より大自然で育ったみかんのほうが美味しく感じるように(単なる錯覚かもしれないけど)。

次に休憩の取り方が大きく違う。デスクワーカーの時代のランチタイムといえば、出動命令が出されたアリが巣から這い上がるように、「集団」で行動するのが常識だった。いわばチームランチ。そこで仕事の話をしたり、プライベートの話をしたりして、なんやかんやでコミュニケーションは取れていた。

ところでこのブックカフェ(あるいは世間ほとんどの飲食店など)では、その会社員時代のランチ常識は通用しない。言うまでもなく、スタッフが一斉に休憩を取ったら誰がお客さんにサービスを提供するんだい、という話になるので、休憩は交代で順次に取っていくようにスケジュールが組まれている。僕は昼の12時スタートなんで、休憩はだいたい4時以降になったりする。ブランチの午後バージョンは、なんと言うでしょう?アフランチ?

このような食事はやや不規則に聞こえるかもしれませんが、僕にとってこれは一つとんでもないメリットがある。うちの店は、スタッフでもその空間を利用できるし、カフェと本屋の従業員割引もある。お店のピークタイムを避けての休憩は、つまり気軽に使えるということだ。

スタッフの仲間にコーヒーとサンドイッチを頼んで、本棚から前から気になっていた本を取り出し、窓際の席でゆっくりひと時が過ごせる。自分たちが提供する食べ物とサービスと空間を、自分が実際の客になって満喫する、なんという贅沢。このようなサイクルがいい発見をもたらすのではないかと思う。ホットドッグの上に乗せる、砕いたミックスナッツは滑りやすいとか、カフェラテのミルクの温度が若干ぬるいとか、そういったささやかに見えて、でも大事なことに気付くようになる。

これだけは絶対ちゃんとやりたいというのがあります。食べ終えて返却台にトレイを返すときに、しっかりと「ごちそうさまでした」と向こう側の仲間に言うこと。自分でやっているからこそ、そのありがたみが倍増する。まあここだけじゃなく、毎日僕たちのために料理を用意しているすべての人に言いたいですね。

つづく

Share on Twitter Share the post
Qihuan Piao

Qihuan Piao

(aka kinopyo) is Chinese based in Tokyo. Software writer. He shares stories inspired him in this blog. His infamous line - "I feel calm when I kill those monsters, or people (in game)" shocks his friends deeply.

He also writes in Japanese and Chinese.