『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』感想
もう昔の本だけど、少し前に読み終わってなかなか面白かった。
『騎士団殺し』を読んでおいたので、村上春樹の小説の「癖」は了承の上というか、心の準備が今回はできた、さすがに😓。ストーリーの伏線は回収されないし、セックスシーンの描写も相変わらずやたらと尺を取る…それらを置いといて、自分探し・自我補完の心の旅がありありと繊細に描写され、途中から一気に加速し、本に線を引く暇もなく読み終えた。個人的にかなり納得のいった物語である。
ふと一人の友人にこの本を勧めたいと思った。そして、16歳と29歳の自分にも送りたいと思った、こいつはできっこないけれど。
その友人は恐らく仕事は問題なく、むしろ順調に進んでいるけれど、心には深い穴が空いていて、一人になった時の時間の流れに異様な重みを感じているのかもしれない。
そして彼も駅が好きで、また(恐らくはかつてないほど強烈に)ある女性に心が惹かれて、でも恋人という領域には達することができず、その気持をどう抑えればいいのか、あるいは勇気を絞った方がいいのか、分岐点で迷っているかもしれない。
彼がこの本を読んだら何かヒントらしきものが得られるかもしれない。そう願いたい。
また過去の自分に対しても–ルックスにコンプレックスを感じ、何一つ自信と勇気を持てない少年に、人を愛せないじゃないかと自己否定していたアラサーに–同様にそっとこの本を差し出したい。
自分は何色だろう、とこれを読んでから気になっていて、縁があって「色が見える」方にこの前出会えて、診断してもらった。そしたら、「グレーに少しの茶色」と言われた。
大福を思い出した。