本:『魔眼の匣の殺人』、呪いと予言と予知

『死人荘の殺人』の続編。設定も人物もそのまま受け継がれ、ホームズとワトソンが次のミステリ事件に巻き込まれる。

序盤はあまりにもペースが遅過ぎて全然進まなかった。もし前作を読んでいなかったら、恐らく諦めたかもしれない。中盤に入り、(言葉はあれですが)一人目の被害者が出てからは、ようやく勢いが増して、最後の死闘までテンポよく突き進んだ。

前作ほどの衝撃はなかったが、これはこれで、斬新な発想でいい頭の体操になって、けっこう楽しめた。

魔眼の匣の殺人
今村 昌弘
東京創元社
売り上げランキング: 1,290

余談になるが、ミステリ小説は定義上どうしても謎解きや犯人探しに注力するため、登場人物の内面の描写が欠けている。まだあまりわかってないのに、あっさりと死んでしまったキャラクターもいる。ミステリの部分にウェイストを置かないと、そもそもミステリ小説にならないから、欠けざるを得ないか。

そうするとちょっと問題になるのは、作者が最後にその犯罪動機を開示しても、こっちとしては、それをうまく呑み込めない場合がある。多彩多様な登場人物、せっかくの素材が不完全燃焼でこうも唐突にキックアウトされたり、軽々と犯罪を犯したりして、腑に落ちないというか、もったいないというか、物足りないというか…そんなモヤモヤになることがある。

その消化不良を治すために、本作での何人かの人物について、もう少し自分の妄想を書き伸ばしてみた。生地を揉み伸すように。


👉以下ネタバレになるので、クリックしてお読みください

王寺

「貴重品」をバイクに置いてきた、置くべきではなかったと語る王寺の未練めいた言葉は、何か変だと思った。凶器ではないかと推測したが、それがまさか御守りとは。他にも体には魔除けと思われるタトゥーが彫ってある。三つ首トンネルに行った他の仲間は次々と謎の死に巻き込まれ、彼が唯一の生き残りだった。

そんな彼はきっと恐怖に追われる日々を送ったんじゃないか。もしかしたら、バイクであちこちを駆け回り、少しでも魔除けできる奇人に助けを求めたり、あらゆる御守りをかき集めたりしていたのかもしれない。東京での暮らしを完全放棄し、関西に移転したのも、災から逃げている匂いがする。完全に三つ首トンネルの呪いに心身を潰されてもおかしくないのに、珍しいことに、彼はまだ明るい一面を保てていた。

スポーツが苦手だと悩んでいた純くんには、こう励ました:

「子供の頃は声が大きくて足が速い子が目立つものさ。男らしさってのは、女の子を大事にできることだよ」

読み返したら、彼は確かに紳士だった。臼井に恫喝される神服さん(なぜかここだけ「さん」をつけた)を庇ったり、軟禁と言い出された十色のために弁明したり、葉村くんに代わって、ベッドのない地下の部屋を身から選んだりした。しかもこんな気の利いたセリフで:「ツーリングでは野営することもあるしね。屋根と布団があるだけで天国さ」。

団体行動でもいろいろと気配りを見せていたが、それは臼井が「呪い」に殺されるまでだった。またの変死に、今まで逃げ続けた、あるいは逃げ切ったと思った呪いに、きっと魂胆も震わせたんだろう。

同じく三つ首トンネルに行ったことのある臼井が、不可抗力の地震に呑み込まれた。命の重さはまるで煙草の吸殻よりも軽い。また、トンネルに行ったほか三人の友人の死は、実はサキミはすでに予知していて、その彼女から、この二日間で男女二人ずつが死ぬと告げられた。さらに、彼の精神崩壊の決定打になったのは、初対面の十色は絵を描いたらそれが現実となり、その都度誰かが死にかかる状況に陥る、彼にしてみればただの謎と驚異の能力者だ。呪いに、予言に、予知。王寺にとっては、これはもうたまるもんじゃない。

そこで、サキミの予知能力を逆手に取り、他人の死でその枠を満たせば自分はこの何重もの呪いから逃げられるとでも思った。そこからは自己正当化しながら、一歩一歩闇に落ちていった。

吉見に来なければ、ガス欠にさえならなければ、彼もまた全然違う人生を送られたのではないか?
運転するんだったら、ガス欠には絶対気をつけよう。。

茎沢

確かに口を開ける度に周りを不快にさせる、短絡的な考え方の持ち主だ。十色の超能力の唯一の理解者ではあるが、彼自身の思い込みが強すぎて、会話は一方通行。

でも彼もまだ高校一年生だ。その歳の、特に男の子にはそれくらい夢中で短絡で愛慕の感情に走らせるのも、ごく普通のことじゃない?

十色への想いは純粋な利他的とは言えないが、完全に利己的でもない。彼は十色のその予知能力に救われ、そして彼女がその能力ゆえにいじめにあったり、不自由な生き方をしたりするのをほっとけなかった。先輩の能力は人の役に立つ、先輩は尊敬されるべき存在であることを世間に証明したかった。今はその証拠集めで、データが揃えれば十色に相談すると言った。

十色は当然それを望んでいない。能力なんてうんざりだ、普通の生活を送りたい。しかし、それを茎沢には伝えていない。彼女もまだ高校二年生、二人とも自分のことでいっぱいで、かつ感情表現が下手な年頃じゃないか。もし、この異常な環境を生き延びて、事件を通して互いに本音を言えたら、彼女の支えになろうとした彼は、きっと真の理解者になっていくんじゃないかな。

十色が悲惨に殺され、彼はきっと自分のせいにしたんだろう。守れなかった。あのとき強引でも先輩を部屋から開放されるべきだった。そして皮肉なことに、結果的には、彼の熱弁した推理は実に正しかった—犯人(王寺)は十色の絵を覗き見して、それに合わせて現場に花をばら撒いたし、サキミもまた嘘をついていた。凄惨な十色の死体の前で絶叫し、失意のまま魔眼の匣を飛び出し、山の奥へと姿を消した彼が、次にみんなの前に現れたときは、腹を引き裂かれ、あちこち齧られた死体となった。

彼は最後、どんな思いをしていたんだろう。悔しい、情けない、怒り、無力。静寂な夜中に山の奥を彷徨い、進み道もなく、戻るすべもなく、凶悪な熊に遭遇し、ぐちゃぐちゃにやられた。尊敬する先輩と、せめて死に方は似ていると慰めを得たのか、倒れる寸前、目に映るいっぱいの星空に、「こんなはずじゃなかった・・・」と嘆いたのか。寒風は彼の涙に籠もる最後の熱を乱暴に奪い去った。

あまりにも無慈悲だ。


他にも朱鷺や岡町についてもカメラを回したいのだが、もう長くなってるから、一旦ここで切ります。

ノンフィクションなのに、なんでこうも惜しむんだろう、ね。

March 21, 2019 Book

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Qihuan Piao

Qihuan Piao

(aka kinopyo) is Chinese based in Tokyo. Software writer. He shares stories inspired him in this blog. His infamous line - "I feel calm when I kill those monsters, or people (in game)" shocks his friends deeply.
He also writes in Japanese and Chinese.