カウンターの向こう側に立つ(1)——33歳からのカフェバイト

「パクと申します。11時40分にKさんと面接の予定がありますが」

本屋のレジでそう伝えて、僕は担当者が来るのを待っていた。その1分足らずの間、僕は隣りの棚を意味もなく眺め、目のやり場に困っていた。喉は乾いていて、心臓のドキドキの鼓動が一段と大きくなっていた。いつぶりなんだろう、こんなに緊張したのは。生きている感触だ。

後にカフェ側の席に案内され、Kさんがやって来た。挨拶の後、こちらから履歴書を渡した。そこにはこの十年間、ソフトウェアエンジニアとして働いていた会社名が載っている。最後にこのような書類を準備したのは7年前だった。

それを手に取ったKさんは戸惑いの色を浮かべた。
「エンジニア…ですね。うちのブックカフェの仕事を応募するのは…エンジニアの仕事を希望ですか?」
「いいえ、カフェや本屋のスタッフとして働きたいです。アルバイトとして。」
そう答えて僕はカフェのカウンターを指差した。

Kさんの目はさらに見開いていた。「それはつまりレジやドリンク、洗い物などの仕事をやるんですか」と確認した。
「はい、そうです」自分に務まるのか、正直不安もありつつ、揺るぎない決意を示そうとしていた。心の底からこの仕事が懇願している。

なぜ、とまではKさんは口にしなかったけれど、明らかにその答えを求めていることが分かった。何か勘違いしていない?うちでいいの?というような確認の目線だった。確かに滅多にない話ですね。現役エンジニアが、33歳にもなって、なんでわざわざブックカフェでバイトを始めようとするのか。

その答えは今になってもよくわからない。それを論理的にまとめるにはまだ歳月が必要とするかもしれない。一つ断言できるのは、ただ、この仕事をしたい、お客さんの顔が見たい、そんな自分の気持ちに気づいたことだ。

面接は15分も経たないうちに終わってしまった。伝えきれなかったことがたくさんあった。

やらないよりやったほうがいい。最近はこの言葉に励まされ、損得をいちいち考え、優柔不断でいるよりかは、「やったほうがいい」のような確信を持てる物事については、とことんやる。この方がまず身が軽くなるし、いい結果を生み出せる気がする。


翌日。

一刻も早く電話に気づくよう、久しぶりに携帯のマナーモードを解除した。不安が膨らみ始めた頃に電話が掛かってきた。ぷるぷる震えた手で、スピーカを耳元に当てた。

朗報。
採用。

こうやって僕の人生初のバイトが始まったのだ、33歳の春から。

つづく:変わってくる日常の風景

2018年06月03日(日) Diary, Work, Cafe


Qihuan Piao

朴 起煥

東京で働いている「外人歴」9年のソフトウェア「ライター」。いつの間にか納豆が食えるようになり、これで日本に慣れきったと思いきやまだまだ驚きが続いてる。読んだり書いたりするのが好きで、自身の経験や本から得た「何か」をここに書き出してる。最近古本屋にハマってる。
他にも英語中国語で書いてます、よろしければチェックしてみてください。